村主『OUT』

 書き出しは、いちばん普通の小説っぽかった。


 (ネットで知り合ったアイドル好き仲間と都会の駅で待ち合わせるというシチュエーションがチョット個人的な経験とオーバーラップして、フラットに読み進めることができなかったのだが。)


 リスペクトし合える人間とついに巡り合えた、のも束の間、とんだ外道だった。
 ソウルメイトになれるかもしれないと期待していた反動もあってか、非道な行為を嬉々として語られパニックに陥る主人公の心中を察するに余りある。


 裏切られた後の主人公の描写で惹かれたのは「チェーン店」。
 ユニバーサルサービスに頼ることで極力 心を無にしたいという思いが伝わってきた。


 やがて、いや、ついに“路上の深い溝”に差し掛かる主人公。
 存在するかどうかも定かでない作業員を相手に正義感を発揮し、無意識下にあの外道を否定することで心の平静を保とうとしたのだろうか。
 そして、転落−−−。
 どこまでも浮かばれない。
 5作目にして、とうとう主人公が実害を被ってしまった。(それにしたって自分で勝手に、なのだが)
 「あっ!?」のひと言にいくつもの自己嫌悪が込められているような気がした。
 読後感は、非常ににがい。


 うまくまとまらなかった。


 

村主『日常』

 第一声は「♯つかぽんの日常 じゃねぇか!」
 それはさておき、これだけ並ぶとなかなか壮観である。まとめて読むと、その世界に確かに存在するつかぽんの好感度がグンと上がる。
 今というタイミングもよかった。


 思春期の女の子の無邪気な様子、ひとつの出来事に対する感情がひとつではない様子、自分の感情を的確に表す言葉を持たない様子、思惑や行動がどうにも結果と噛み合わない様子が、センチメンタリズムたっぷりに描かれている。


 一つの超短編ごとに物語があって、「日常」は贅沢な作品集となっている。作品集というより、神様の日記だったのかもしれない。


 ちなみにマイフェイバリットを挙げると、「つかぽんは嘘をついた」「雪の音はぐぐぐ…だな」「委員長は頭が良すぎる」といったところだろうか。


 

村主『まるで嫌がらせ』

 冴えない日々を送っている男の、衝動的な小旅行。


 旅館の様子、そこに至るバスの様子、また旅館の様子、再びバスの様子、さらに幼い頃の出来事を思い出し、あまつさえ余計な想像までしてしまう。主人公の思考の散乱具合が巧みに表されている。


 構成はそれとして、撞木の例えや引き合いに出された「bounce」など、細かなところに「こうした単語の登場は村主さんならではだな」と思わされたりした。


 「これは誰かの嫌がらせかもしれない。」
 (幽遊白書のブラック・ブラック・クラブみたいな)酔狂な金持ちが道楽として、自分を見張り、いたずらをし、狼狽する様子を観察している−−−そんな思春期特有の過剰な自意識・被害妄想を引きずっているのだろうなあ、この主人公は。
 「なんだそりゃ」と、どこか客観的に見れている成長も孕みつつ。


 やがて「IN LOVE」に心を許しそうになり(笑)、直前で我に返る(笑)わけだが、バスも旅館も女将も普段通りであって、全ては主人公の心の持ちようなわけだ。主人公が勝手に自分のフィルターを通して勝手に錯綜して勝手に奮い立っただけで。


 読後感は特に良くも悪くもなく、まさしく「なんだそりゃ」という感じだった。ホントに。


 「これは誰かの嫌がらせかもしれない。」に共感できたので、それで充分。


 

村主『その時は』

 いきなりのaiko評に面食らい、「マガタマの曲線のように」という直喩に痺れた。この表現はオリジナルなのだろうか? かっこいいぞ。
 ルックスをスキー場そのものに例えられてしまった広瀬香美評は、アイロニーとも違って単純に酷くておもしろかった。


 アートディレクションなるものを言語化したら意外と本当にこんなもの(デザイン〜〜〜日々なのだ。)なのかもしれない。
 ところで、BOSSなのがよかった。これがサンガリアだとブレてしまっていた。


 主人公の感性と現状の描写に文章のほぼ全てを割いての最終盤。
 世間よりワンランク上の景色が見えている自覚もある。(aiko
 でもそんな世間野郎の要求にうまいこと応えられていない。(リンゴ酢)
 それどころか世間のほうから自分が認知されていない(苦笑)(Z会
 文章のボリュームは50:49:1くらいかもしれないが、この1がビビッドカラーの挿し色となっている。


 最後の一文になってようやく「その時は」という言葉が登場し、この短編のタイトルであることを思い出したわけだが、なるほどこれでよかったなぁ、と。
 ひょっとしたら作者は書き上げてからテキトーにピックアップしたのかもしれないが。
 狙いであれ、非意図的であれ、筆才を認めざるを得ない。


 

村主『ブラジルの季節』

 まず、喫茶店の描写が好きだ。
 「二十代の店員の女」の存在を筆頭とした、“喫茶店を構えること”がゴールだったんじゃなかろうかと思わせる、行き届いていない店内。
 中でもバンジョーや消臭元といったディテールが色を決定付けている。
 無論、アイテムのチョイスばかりではなく、「同じところばかりを拭いている」だとか「ケンカするように」といった表現にこそ妙味を感じさせられたのだが。


 劇団員に関しては、「女をガンタイプの赤外線サーモグラフィで観察する集団」という冒頭の紹介がもう入口であり出口であり、それ以外の何物でもなかった。
 義憤に駆られて(笑)走り出した主人公が一番どーしよーもない奴で。
 やがてラストシーン、そんな主人公の身に及んだどーしよーもないシチュエーションと、唐突すぎる文学的で高尚なロウソクの表現。
 二者のギャップが物語のコクを一等深めたところで、サッと幕を引かれる。


 全体を通してサブカルマンセーな若者が好みそうなテレ東系深夜ドラマのセットのような光景が浮かんだが、チョット違う気もする。
 仮に映像化されたらものすごく琴線に触れるシーンになるかもしれないし、箸にも棒にも掛からない駄シーンになるかもしれない。
 そんなことを思った。


 そんな傑作。

 

2012.9.23(日)TGS2012ファミ通町内会イベント

誌面で記事になるのかと思ってたんだけど、その様子も見られないので勝手にレポします。
2012年9月23日、東京ゲームショウ2012のエンターブレインブース“しなハウス”をジャックしておこなわれた、ファミ通町内会イベント。


大音量で流れるオープニングテーマ『ライディーン』を背に町内会のイメージキャラクター“ナッツ”が登場すると、会場はすぐさま大勢の観客に囲まれました。
純粋な町内会ファン:何か始まったから見てみよう:次のみずしな孝之先生のプログラムのための場所取り、の割合はキュッ・ボン・キュッだったような気もしましたけど。

(踊り狂うナッツ。画像のブレ加減でナッツのスピード感を察していただきたい)
ダンス訳:4コマ本を使った企画をするので物販ブースで買ってね!

(観客席に投げ入れられた落花生)


オープニングが終わり、ナッツ、ポルノ鈴木さん、そして塩味電気さんを招いての町内会トーク
「芸人活動はどう?」
NHKケータイ大喜利で、初期の一番競争率の高いときにレジェンドになったんだよね」
「塩味くんって下ネタが無いんだよね」「まぁ…モテたかったんでしょうね」
「ところで榛○さん……あっ、本名言っちゃった」「うおぉぉぉい!!!」
などなど。


そしてメイン企画であるところの、ナッツvs塩味電気さんの4コマ対決へ。
先日出版された町内会の単行本『みんなの4コマ ゆうこ編・あつこ編』に収録されている4コマの“新しい4コマ目を考える”という大喜利対決で、勝敗は観客による投票(ナッツのほうが面白かったら“ゆうこ”、塩味さんだったら“あつこ”を掲げる)で決定する、というもの。
「DJ目ヤニさんの4コマがお題になったらどうしよう」
「みのむし専門学校!!」
なんて会話が飛び交いつつ、冷凍食品さん、知る権利2006さん、そして塩味電気さんといった、そうそうたる投稿者の4コマ目をアレンジして対決するも、なんと最終的に同点!
そこで観客席にいた少年(キョロちゃん=ピーナッツのTシャツを着ているというミラクル!!)に判定を委ねることに。
結果は……塩味電気さんの勝利! ナッツ敗北! 罰ゲーム決定!!




(罰ゲームとしてダイソンの刑に処されるナッツ。単行本の宣伝は忘れない)

(死)


そしてサイン&芋版会。
自分がポスティングだと名乗り、町内会トークに花が咲きました。

(今日が誕生日だと伝えたら、塩味さんがバースデーケーキを描いてくれました)



オマケ。
町内会イベントの後に開催された、みずしな孝之先生のサイン会。
いい電子』の単行本が出るたびにサイン会に参加しているので、なんとも“俺得”な連続イベとなりました。
ニコ生のカメラに向かって「町内会常連のポスティング失敗さんが来てくれました!」と先生に言ってもらったり。
つやつや!


(サインをしてくださる みずしな先生)

(『いとしのムーコ』2巻と『いいでん!』1巻)


終わり。
楽しかった!
また町内会イベントやってほしいな。

『台風が近づいて来たからちょっとアイドル握手会の様子見てくる』

posting9232012-09-09

せきしろさんが音頭を取り、2012年8月12日の【コミックマーケット82】で頒布されたアイドルアンソロジー『台風が近づいて来たからちょっとアイドル握手会の様子見てくる』の感想。
そもそも『ファミ通町内会』のファンである自分は、町内会の番外編という見方でこの同人誌を読んだ。



【塩味電気】
初めのページをめくった瞬間に「塩味電気さんだ!」とわかるイラスト。
冒頭を飾るにふさわしい投稿者だ。
作品自体は、町内会のコーナー『9コママンガ』を果てなく読んでいるような印象で、塩味ワールドが延々と続いていくトリップ感を味わえた。


【スモールワンダー】
小ネタを散りばめていくタイプで、絵のクオリティは掲載作品の中で断トツだった。
藤子不二雄A先生キャラや所ジョージのイラストをチョイスするセンスが良かったなあ。
一番“ハガキ職人”っぽかったかもしれない。


【ぱま】
他の作品とかなり毛色が違っていて、全編実写。このためにロケしたのかな?
クレイジーな作品に囲まれて、アンソロジー全体の中でもアクセントになっていた。
ネタ的な要素で言うと、ミニモニ、田崎真也、裁判所、元気なうちに遺影写真、ラングドシャ観といったワードがツボだった。


【村主】
うまくまとまらなかったので箇条書きで。
・いち町内会ファンとして、ハガキ1枚を超えた村主さんのアウトプットを見れたことが嬉しかった。
・全作品の中で一番、作者と主人公が近いのでは。
・43ページ1コマ目中央の女の子がカワイイ。
・誌面の黒いところからも白いところからも悲しさを感じた。
・3作品通じて「こちら側(男・ファン)と向こう側(女の子・アイドル)」というアングルが思い浮かんだが、うまく消化できなかった。
・主人公は感受性が豊か過ぎる。もっと鈍感に生きられれば楽なはずなのに。鈍感だったら楽なことにも気づかないか。
・読後感は決して良くなく、無表情にさせられた。
・登場人物が誰ひとり幸せになっていなくて全体的に悲しいけど、この悲しい世界は嫌いじゃない。


【ムラヅクリ】
基本的にリアルな世界がモチーフ。
「ボイスレッスン」と「コメント」は、現実世界(前半のコマ)に『つづきスプレー』を吹きかけたらこうでした、みたいな印象を受けた。
ここでは関係ないけどムラヅクリさんの「♯こんな鞘師は良い」は本当に良い。


【長尾パンダ】
町内会の『がちんこトレカ』などのハガキコーナーにいくつも掲載されそうなキャラやフレーズが満載で、
個別のボケが多数散りばめられているのに、ちゃんと全体のストーリーとしてもまとまっており、オチに向かっていてスゲェと思った。
どちらが合格でもよかったけど、読み進めていく過程が楽しかった。
全作品のうち最長の16ページという大作、お疲れ様でございました。


【糞だるま】
バカサイでも町内会でも異彩を放つ糞だるまさん。
今回のアンソロジーでも独特の世界観は見られたけど、正直、ボリュームを含め物足りなさを感じた。
“アイドル”との相性があまりよくなかったのだろうか。


せきしろ
「あーっ、火縄銃ね!」と納得させられてスッキリ。
抜群に高値安定な、ポップなせきしろさんのアイドル漫画。
あえて欲というかワガママを言えば“男性主人公の表情”を見たかった。



まとめ。
町内会大好きっ子としては、まず町内会を町内会たらしめた村主氏と塩味電気氏のマンガから読んだ。
そして、比較的若手ではあるけれど唯一の“町内会長”経験者で実力は折り紙つきの長尾パンダ氏。
村主さんの感想でも触れたけど、投稿ページの限界(スペース、趣旨、レギュレーション等)を超えた投稿者のアウトプットにいくつも出会えたことの多幸感ったら。
ネタがおもしろいだけの投稿者は数多いるけど、「この人はどんなことを考えているんだろう」と頭の中まで気になる存在は限られる。
もちろん町内会以外の人の作品も、どれもレベルが高くてオリジナリティーがあっておもしろかった。
というわけで、『台風が近づいて来たからちょっとアイドル握手会の様子見てくる』、サイコーだった。
このような“場”を作ってくれたせきしろさんと、著者の皆様に、勝手ながら感謝申し上げたい。


終わり。