村主『まるで嫌がらせ』

 冴えない日々を送っている男の、衝動的な小旅行。


 旅館の様子、そこに至るバスの様子、また旅館の様子、再びバスの様子、さらに幼い頃の出来事を思い出し、あまつさえ余計な想像までしてしまう。主人公の思考の散乱具合が巧みに表されている。


 構成はそれとして、撞木の例えや引き合いに出された「bounce」など、細かなところに「こうした単語の登場は村主さんならではだな」と思わされたりした。


 「これは誰かの嫌がらせかもしれない。」
 (幽遊白書のブラック・ブラック・クラブみたいな)酔狂な金持ちが道楽として、自分を見張り、いたずらをし、狼狽する様子を観察している−−−そんな思春期特有の過剰な自意識・被害妄想を引きずっているのだろうなあ、この主人公は。
 「なんだそりゃ」と、どこか客観的に見れている成長も孕みつつ。


 やがて「IN LOVE」に心を許しそうになり(笑)、直前で我に返る(笑)わけだが、バスも旅館も女将も普段通りであって、全ては主人公の心の持ちようなわけだ。主人公が勝手に自分のフィルターを通して勝手に錯綜して勝手に奮い立っただけで。


 読後感は特に良くも悪くもなく、まさしく「なんだそりゃ」という感じだった。ホントに。


 「これは誰かの嫌がらせかもしれない。」に共感できたので、それで充分。